農村地域のまちづくり −里山資源を活かした農業体験施設の交流拠点化に向けた官民連携の取組−

はじめに

2040年代には、日本の高齢化がピークを迎え、人口減少と相まって、自治体は財政悪化や人材不足、福祉需要の増大、インフラの老朽化といった深刻な課題に直面すると予想されています。こうした状況の中、地域の魅力を維持・向上させ、持続可能なまちづくりを進めていくためには、新たなパートナーシップの構築が不可欠です。

当社EJECは、地域が抱える課題の解決と持続可能な社会の構築・維持に向けて、建設コンサルタントとしての技術を基盤に、社会インフラ関連の案件開発、出資、事業運営、アドバイザリー業務など多様な事業を展開しています。こうした取り組みを通じて、地域循環共生圏における新たなビジネスの創出と地方創生に貢献しています。

現在、地域活性化に向けた観光資源の開発が進む一方で、その運営管理が課題として浮かび上がってきています。当社では、こうした課題の解決に向け、指定管理業務にも取り組んでいます。具体的には、当社が100%出資する株式会社エンジョイファーム(SPC)を通じて、岡山県矢掛町が所有する農業体験施設を、指定管理者制度を活用して運営しています。

以下では、この農業体験施設の運営が地域に与える影響や、どのようなまちづくりの可能性を拓いているのかについて、事例を交えてご紹介します。

対象地域の概要と課題

本事業は、岡山県矢掛(やかげ)町において実施しています。矢掛町は岡山県の南西部に位置し、江戸時代の参勤交代に利用された宿場町の風情を今に残す歴史ある町です。旧本陣と旧脇本陣が当時の姿のまま保存され、いずれも国の重要文化財に指定されています。これらがそろって重要文化財に指定されているのは、全国でも矢掛町だけです。

近年では、その歴史的資源を活かし、町全体を一つの宿と見立てる「アルベルゴ・ディフューゾ・タウン」として注目を集め、多くの観光客が訪れています。

出典:Map-It マップ・イットより

 

指定管理事業の対象施設である「水車の里フルーツトピア」は、矢掛町の東部に広がる里山エリアに位置する農業体験施設です。この施設は、「農業を通じて豊かで美しい町づくりを実現する」ことを目的に、平成5年に矢掛町によって整備されました。約7.5ヘクタールの敷地には多種多様な果樹園が広がり、四季折々の果物が甘い香りを漂わせています。来園者は新鮮な果物をその場で味わえるだけでなく、農業体験も楽しむことができます。また、美しい芝生が広がる「お祭り広場」や交流拠点も備えた、地域とのつながりを育む施設です。

しかし、農業を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。少子高齢化や後継者不足に加え、地域の社会機能を支えてきた人材の高齢化と担い手不足により、地域社会そのものの維持が困難な状況となっています。その結果、地域住民は文化の継承すら困難なほどに疲弊し、限界集落の拡大も深刻な問題となっています。

このような状況下において、地域再生の鍵となるのは、価値ある商品開発と、地域独自のブランドによる持続可能な収益構造の確立です。地域ならではの魅力を創造し、内外に発信していくこと。そして、いわゆる「上流(生産)から下流(販売)」までの一貫した流れを構築することが求められます。そのためには、環境の整備に加え、農産物の加工を含む付加価値化が不可欠でした。こうした背景のもと、平成25年より、矢掛町は農業体験施設の管理運営を株式会社エンジョイファームに委託し、指定管理事業としての運営が現在まで続いています。

エンジョイファームの事業スキーム図

 

農業体験施設が果たす地域的役割

当該農業体験施設では、地域資源や人的ネットワークを活かした運営を行っており、行政単独では限界のある事業展開を、民間ならではの柔軟性とスピード感で補完できる点において、高い親和性を持っています。こうした特性を踏まえ、当社は指定管理事業にとどまらず、積極的に自主事業を展開することで、地域やまちづくりへの波及効果をさらに拡大できると考えています。

当該施設の運営に際し当社では農業体験施設は、単なる観光地でも、生産施設でもなく都市と農村地域、観光と生活、学びと遊びをつなぐ「地域の交流拠点」として、多様な機能と価値を担っている点に着目して運営を実施しています。

ドローンによる農業体験施設の撮影

 

事業内容

まず、観光資源としては、果物狩りや農業体験など、近隣地域また都市部の家族連れ等に体験コンテンツを提供することで、交流人口の増加に貢献しています。収穫体験を通じて来園者が農業への理解を深めると同時に、地域への関心を高める効果も期待できます。

都市部から果物狩りを通して地域への訪問を訴求

 

次に、六次産業化の促進についてです。農作物の加工・販売・飲食(例:カフェ営業など)を施設内で展開することで、地元産品の高付加価値化を実現しました。また、SNSを活用した情報発信により、都市部のアーリーアダプター層を取り込み、地域の認知度向上とあわせて収益の拡大にも成功しています。こうした取り組みは、地域ブランドの確立にも大きく貢献しています。

高付加価値商品としてSNSで発信したカフェメニュー

 

さらに、食育・環境教育の現場としての意義も重要です。学校や福祉施設と連携し、子どもたちが自然に触れる場を提供することは、地域全体の教育力や包摂性の向上にもつながると考えられます。

自治体と協働で行った親子農業体験(梨狩り+スイーツづくり)

 

そして、地域住民の参加・雇用機会の創出も大切な指標です。イベントや運営サポートへの住民の参画、地元人材の雇用など、施設は地域内に新たなつながりと役割を生み出します。

地元、近隣住民と連携し運営したイベント

 

事業による効果

こうした取り組みの結果、施設の利用者数は町営時代と比べて約3倍に増加し、2016年度以降は黒字経営を継続しています。さらに、地元雇用の創出にとどまらず、起業人材の輩出事例も生まれています。

現在では、この農業体験施設は、地域のコミュニティ形成や経済循環のハブとしての役割を果たすまでに成長しつつあります。

まちづくりへの波及効果

当該農業体験施設の民間による運営は、地域経済の活性化や交流人口・関係人口の増加など、施設の枠を超えた広がりのある効果をもたらしました。

たとえば、宿泊施設との果物狩り体験の連携や、地元商店とのコラボメニューの開発、各種イベントでの共同開催、さらに教育機関との商品開発などを通じて、観光客の消費を促進し、地域内での経済循環を強化しています。

また、新規就農者の受け入れや、地域おこし協力隊制度との連携により、訪問者が地域の情報発信や移住・地域活動に関わるきっかけを創出し、地域の活性化に貢献しています。

今後もエンジョイファームの官民連携での事業ノウハウを活かして同様の課題を抱える他地域においても持続可能な地域社会の実現に貢献できるよう取り組んで参ります。

 

事業や取組の具体的なノウハウについても別の記事でご紹介したいと思います。是非ご覧いただけますと幸いです!

 

農業体験施設「水車の里フルーツトピア」↓

https://www.fruit-topia.com/

矢掛町観光情報↓

https://japan-yakage.jp/

EJEC↓

https://www.ejec.ej-hds.co.jp/

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