1.道路経営への参画と現状の課題

伊吹山ドライブウェイは、昭和39年に開業し翌40年(1965年)に全線開通しました。2025年は全線開通60周年に当たります。当社(株式会社エイト日本技術開発)では、2006年から運営会社である日本自動車道株式会社(以下、JARCO)に出資することによりドライブウェイの経営に参画し、インフラ施設維持管理実践の場として道路施設の維持管理・長寿命化を目的とした業務に取り組んできました。また、2018年からは同社の実質的な経営権を取得し、道路運営と合わせて観光施策による集客や自然環境の保全・土砂災害の防止対策等を基盤とした地域課題解決事業への取り組みを企業活動として進めています。

伊吹山とドライブウェイ(JARCO水谷氏撮影)

当ドライブウェイのような民間経営による営利目的の自動車道は、道路運送法に基づき一般自動車道とよばれ、道路法に基づく通常の自動車専用道路と区別されています。国土交通省によれば、全国には26事業者30路線の一般自動車道があり、多くが観光用途に供用されています。これらの多くは昭和中期のモータリゼーション黎明期に建設され、車社会の発展とともに通行台数を伸ばしたものの、レジャーの多様化や若者のクルマ離れによるマイカー保有台数の減少に伴い、当ドライブウェイを含め近年では往時の半分程度まで通行量が減少した道路も多く、同時に道路施設の老朽化といった問題に直面しています。

開通当時の状況(1964年;JARCO社内資料)

当記事では、このような課題を踏まえ当社が20年余りにわたって取り組んできた道路維持管理と、今後、地域とともに進めていきたい観光振興や防災・環境保全事業について、エイト日本技術開発中部支社所属・伊吹山ドライブウェイ取締役兼務の居川よりご紹介します。

EJEC・伊吹山ドライブウェイの居川です

2.伊吹山ドライブウェイの概要

伊吹山ドライブウェイは、天下分け目の東西合戦で有名な岐阜県関ケ原町を起点とし、同揖斐川町を経由して滋賀県米原市に位置する伊吹山9合目にいたる全長約17kmの山岳自動車道路です。起終点の高低差が1000m以上あり、刻々と移り変わる車窓の風景を味わいながらのドライブを楽しめます。また、我が国でもいち早くクロソイド曲線を取り入れた道路として、その線形の美しさや走りやすさも特徴の一つとなっています。ドライブウェイ終点には乗用車や観光バス約500台が駐車可能な駐車場があり、飲食や特産品等の買い物が楽しめる商業施設“スカイテラス”が併設されています。そこから山頂までは3本の登山道があり、高低差約100mの軽登山が楽しめます。冬期は積雪に閉ざされるため、営業期間は4月第3土曜日から11月最終日曜日までとなっています。

伊吹山は岐阜県と滋賀県の県境に位置する日本百名山のひとつに数えられる山で、標高1377mの山頂は滋賀県の最高地点となっています。東西日本の真ん中、若狭湾から伊勢湾へ抜ける地形的なくびれに位置し、山頂から北を眺望すれば遠くに日本海が、西を向けば琵琶湖と比叡・比良山脈が、振り返って東には日本アルプスの山々と岐阜・名古屋の都市群が、そして東南方に目を移せば太平洋が望めるという唯一無二のロケーションとなっています。その地形的位置づけから、冬季にはシベリアから日本海を吹き抜けた北西風が山腹に当たって雪雲を作るため降雪がとても多く、1927214日の積雪11.82mはギネス記録となっています。

山頂駐車場の商業施設“スカイテラス”

山頂域にはおよそ25千万年前の古生代に堆積した石灰岩が分布し、砂岩や粘板岩からなる山腹域の急峻地形とは打って変わってカルストと呼ばれる高原地形が形成されています。登山家深田久弥が著書“日本百名山”の中で、「そのうららかな静かな山頂で過ごした1時間は、まさにこの世の極楽であった」と述べたように、カルスト特有の波長の大きな起伏が作る山頂高原には、固有種や希少種を含む約350種の植物群落が灌木草原や花畑をなしており、足元の露岩には、フズリナ・ウミユリなどの古代海洋生物の化石も見られます。

伊吹山山上の風景

そのような豊かな自然を体験できる山頂の直下までドライブウェイで行けるというアクセスの良さから、伊吹山は当地域屈指の観光地として親しまれています。

3.観光施策による地域振興への取組

ドライブウェイを利用して伊吹山を訪れる観光客は、中部・近畿の近郊地域を中心に年間20万人以上に達し、コロナ禍にあっても集客を顕著に減らすことなくレジャーにおける自然志向の需要に応えるものとなっています。また、ドライブの楽しみだけでなく、山頂駐車場における数々のイベント開催やスカイテラスでの地元特産品の販売などのマーケティング施策により、集客の向上をはかっています。

近年、特に人気の高いイベントは、夏期の夜間営業時にJARCOの職員自らが行う星空案内です。下界とは別格に透明度の高い満天の星空を見上げレーザーポインタを使ってプラネタリウムよろしく星座の解説をしたり、大型の天体望遠鏡を並べて惑星や星団を観察したりと、ファミリーや女性客に大人気の催しを行っています。

星空案内の様子

私自身も“星のソムリエ®”という資格を取得し、望遠鏡を使った星空案内に加わっています。

夕方、地元のレストランで食事をした後、ドライブウェイで山上に上がり星空案内を体験するというのが定番の観光コースとなっており、地域の観光促進にも寄与しています。スカイテラスで販売する地元特産品としては、織田信長の命により山麓での栽培が始まったとされる薬草を使ったハーブティーや伊吹山麓で作られた牛乳を使ったバウムクーヘンなどが人気商品となっています。

また、こういった商業活動以外に、地域の自然保護グループの活動に加わり、一般市民を対象とした植物案内や化石観察会などの文化行事も積極的に行っています。

望遠鏡で見たアンドロメダ銀河

4.道路維持管理と近年の環境・防災問題への対応

我が国の国土の特質である急峻かつ脆弱な地形地質を背負った山岳道路の宿命で、ドライブウェイでは年間を通して頻繁に落石や崩壊などの土砂移動が発生します。また5mを超す積雪や雪崩の発生もあります。

5mを超す積雪の除雪状況

そのような厳しい条件に対応し道路の安全を確保するため、当ドライブウェイの道路維持管理体制は、道路管理者(JARCO)・コンサルタント(当社)・工事会社(地元建設会社)が三位一体となって臨機応変の対応を行うことを特徴としています。すなわち、道路管理者が日常パトロールを行いその結果を詳細に記録し、その情報を踏まえてコンサルタントが年4回の道路及び法面の定期点検を行います。異常が発見・予見されれば随時、工事会社が維持補修工事や防災施設の設置工事を行います。工事会社とは年間の維持工事契約を行っておりドライブウェイ内に現地事務所を設けているため、異常時には直ちに現場に駆けつけて対処してもらえます。

一方で、民間経営のため防災工事に充てられる予算が限られており、最小限の費用により効率的に被害を予防する必要があります。そこで、上述のような機能的な管理体制のほか、脱着式ストーンガードや巻上げ式ロックネット、着脱可能なワイヤーロープ式落石防護ネットといったオリジナル工法を考案し、現地合わせで実地に適用することにより防災効果を得ています。

脱着式ストーンガード

こういった難しい条件に加えて、近年、急速に数を増やしたニホンジカが山腹の植生を食い荒らして裸地化が進み、地球温暖化に伴う降雨量の増加(特に短時間豪雨)と相まって落石や土石流などの被害を頻発させています。

路上に現れるニホンジカ

これはドライブウェイ沿線に限った問題でなく、伊吹山周辺地域の住民生活にも多大な影響を与えており、さらには希少植物の減少・絶滅といった環境問題にも発展しています。JARCOでは、このような周辺地域を含めた環境・防災問題への対応も、今後の企業活動として重要であると認識しています。

短時間豪雨による路上への土砂流出

5.今後の活動

一般自動車道事業者からなる(一社)日本観光自動車道協会は、その活動方針として、自動車道を観光資源として有効活用し国の方針である「観光先進国日本」を推し進めることと、インフラの長寿命化に対処するため道路アセットマネジメント能力の向上を図ることをうたっています。JARCOもこの方針に則り、本文で述べたような数々の取り組みを実践しているところです。加えて今後は、環境・防災問題へより強くコミットすることが重要な役割と認識しており、昨年度より行政や学識経験者を交えて以下の取り組みに参画しています。

・伊吹山山頂域の植生復元に係る滋賀県米原市との連携協定の締結

・山腹の防災対策と地域産業の活性化に係る岐阜県及び揖斐川町との地域振興会への参画

建設コンサルタント会社に所属する技術者である私は、ドライブウェイの事業に関わることにより一般消費者と直接向かい合うビジネス(BtoC)を初めて体験し、その面白さと難しさを日々感じているところです。

建設コンサルタント業で培われた技術や経験をこのような新規ビジネスに活かすことにより、観光振興や防災・環境保全といった地域課題の解決に寄与し、ひいては持続可能な社会実現の一助となれれば幸いと考えています。

以上、持続コン協会報No.982025.6)から引用(一部追記)

 

是非、伊吹山ドライブウェイにお越しください!

イベントや開花情報などは下記のホームページよりご覧ください^^

https://www.ibukiyama-driveway.jp/

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